三代目石田屋

三代目 石田屋 ― 受け継がれし志、遥かなる地にて咲かす

「石田屋」という名は、静岡県焼津に生きた、明治生まれの侍・初代 石田芳之助の志に由来します。山と海が交わる豊かな風土の中で、彼は山の恵みと海の幸を人々に届け、自然と人とを結ぶ営みに身を捧げていました。

三代目・石田高浩は、その志と技を受け継ぎ、和の粋を極めるべく、国内外の名店やミシュラン三つ星店にて研鑽を重ねてまいりました。 2018年、ベトナムという風土に魅せられ、ハノイの地で「割烹いし田」の料理長として腕を振るい、さらなる深化を遂げます。 そして2025年4月、満を持して祖父の屋号を継ぎ、「三代目 石田屋」を開業いたしました。

「三代目」という名には、単なる継承にとどまらず、伝統を未来へと昇華させる覚悟を込めています。 素材の力を最大限に引き出す技、器と料理が紡ぐ対話、そして一期一会のおもてなし―― そのすべてに心を尽くし、「料理とは、口福から幸福を生み出す術である」という哲学のもと、日本料理の真髄を、このハノイの地で表現してまいります。

東西が交わる美の調和

天然木や漆塗り家具・職人の技が光る精緻な工芸品をアクセントとした空間の中にステンドグラスやアール・ヌーヴォーの柔らかい曲線を取り入れたインテリアデザインを取り入れ暖かみのある照明とクラシックなディテールがノスタルジックで洗練された雰囲気を醸し出します

東西融合の感動体験

日本伝統の陶磁器と西洋風のガラス器を組み合わせ洗練された食卓を演出
食材の旬を尊重し大正時代を思わせる装飾や彩りを加えたエレガントなプレゼンテーションでおもてなしします

料理長 石田 高浩

略歴
厨房での哲学は……
“料理とは口福から幸福を産み出す術であり、料理を通じて人々を笑顔に”

1976年静岡県焼津市出身
料理人として、フランス料理アラスカ(静岡)、 日本料理 ほし川(東京) 、初島クラブ(静岡)、 グランドエクシブ浜名湖(静岡) 、エクシブ山中湖(山梨)などで修行
その後、料理長としてマレーシア、シンガポールの日本料理店で経験を積み 2018年からベトナムに在住
2018年からベトナムで4店舗のレストランを開業
華道は小原流、茶道は表千家
東京都河豚調理師の免許(ふぐ取扱責任者免許)、唎酒師の資格も有する
料理人人生30年、節目の今年(2025年)に集大成として三代目石田屋を開業する

石田 高浩

Founder / Head Chef​

1. 石田屋の椀物と出汁

石田屋の椀物は、日本料理の土台である出汁の美しさを、最も端的に伝える一椀です。
北海道・利尻島の昆布に、店主の生まれ故郷である静岡県焼津の鰹節、そして鮪節を合わせ、料理ごとに使い分けています。

吸い物には、上品で香り高い鮪のメジ節を。
煮物や茶碗蒸しには、旨みの厚みが出る鰹節を用い、それぞれの料理にふさわしい出汁を引いています。

水にも妥協はありません。
石田屋では水道水ではなく、昆布の旨みを引き出しやすいベトナムの天然軟水を使用しています。
昆布は60℃で1時間、静かに旨みを引き出します。

その後、節を加えて丁寧に抽出し、最後は静かに濾す。
目立たない工程ですが、この積み重ねが、椀物、煮物、茶碗蒸しの味の奥行きを支えています。

茶碗蒸しもまた、石田屋の出汁の考え方を映す一品です。
やわらかな口当たりの中に、出汁の旨みを静かに重ね、素材の持ち味を引き立てる。
澄んだ椀物とは異なる表現でありながら、どちらも石田屋の出汁の思想から生まれています。
石田屋では、椀物も茶碗蒸しも、ただ温かい料理としてではなく、出汁の品格を伝える大切な一皿と考えています。

2. 石田屋の造り

石田屋では、魚をただ卸して切るだけではありません。

それぞれの魚が持つ旨みのポテンシャルを最もよい形で引き出すため、熟成、酢締め、焼き霜、霜降り、昆布締めなど、魚の個性に合わせて丁寧に手を加えています。

同じ魚でも、状態や脂、香りによって最適な仕立ては異なります。
石田屋では、その魚が最も美味しくなる瞬間を見極め、一皿へと仕立てています。

また、刺身を引き立てる調味料にも妥協はありません。
醤油は、昔ながらの木桶で醸した本物の醤油を使用。
そこに純米酒を少量加え、さらに鰹節と昆布を贅沢に漬け込み、二週間かけて旨みを移しています。
石田屋の刺身醤油に、やわらかな甘みと深いコクがあるのはそのためです。

魚そのものだけでなく、寄り添う醤油にまで手をかけること。
それもまた、石田屋の刺身の大切な仕事の一つです。

3. 石田屋の焼物

石田屋の焼物は、備長炭で焼き上げます。炭の中でも最高級とされる備長炭は、力強い火力と安定した火持ちを兼ね備え、日本料理の繊細な焼き仕事を支える理想的な熱源です。

強い火で表面を香ばしく焼き締めながら、旨みは中に留める。そのため、焼き上がりは外に香りをまとい、中はふっくらとやわらかく仕上がります。
さらに、炭火が生む奥行きのある香ばしさは、魚や肉の持ち味を引き立て、味わいに深みと余韻を与えます。余分な水分を逃がし、素材の輪郭をはっきりと立たせてくれるのも、炭火ならではの力です。

石田屋では、焼物を単なる加熱ではなく、素材の魅力を完成へ導くための大切な工程と考えています。備長炭の火と向き合いながら、一品ごとに最も美しい火入れを追求しています。

4. 石田屋の天ぷら

石田屋の天ぷらは、油を使いながらも、重さではなく軽やかさを追求する料理です。

そのために、素材だけでなく、油、粉、水に至るまで細やかに設計しています。
天ぷら油には、米油、焙煎油、太白油を独自にブレンドしたものを使用。
配合は季節ごとに見直し、気温や湿度、素材の個性に合わせて調整しています。
香りを立たせながらも重くせず、軽やかな衣と美しい余韻を生むための工夫です。

粉には、国産小麦の薄力粉を用い、冷凍で保存管理しています。
余計な変化を防ぎ、安定した状態で衣に仕立てることで、繊細な揚がりを支えています。
また、天ぷらに使う水は、出汁に用いる軟水とは異なり、あえて硬水を使用しています。
硬水の方が衣が立ちやすく、よりかりっとした軽やかな食感に仕上がるためです。

石田は、天ぷらを「究極の蒸し料理」だと考えています。
高温の油で一気に包み込むことで、素材の内側に水分と旨みを留め、外は軽やかに、中はふっくらと仕上げる。
それは単なる揚げ物ではなく、素材を最も美味しい状態へ導くための繊細な火入れです。

石田屋では、天ぷらに合わせる塩にも工夫を重ねています。
独自にブレンドした抹茶塩、カレー塩、粉塩を用意し、素材ごとの味わいを引き立てます。
また、天汁は鰹節の旨みをしっかりと効かせた、濃いめの仕立てです。
そこにたっぷりの大根卸を加えることで、口当たりはよりさっぱりとし、消化の助けにもなります。
天ぷらとともに味わうのはもちろん、箸休めやおつまみとしてもお楽しみいただけます。

天ぷらは、一見すると単純な料理に見えますが、実際には油の香り、衣の薄さ、火の入り方、そのすべての均衡で成り立つ繊細な仕事です。
石田屋では、素材の持ち味を生かしながら、軽やかさの中に深い満足感が残る天ぷらを追求しています。

5. 石田屋の和牛

石田屋が和牛に選ぶのは、熊本県産黒毛和牛「和王」です。

和王は、くまもと黒毛和牛の中でも、肉質等級4等級または5等級、BMS6以上、生後28カ月以上などの厳しい基準を満たしたものだけに与えられるブランドです。きめ細やかな霜降り、とろけるような肉質、芳醇な味わい、まろやかな脂が、その大きな魅力です。

石田屋では、この和王の持ち味を、ただ豪華さとして見せるのではなく、日本料理としての火入れと構成で丁寧に引き出します。
脂の甘み、赤身の旨み、その両方が美しく感じられるように仕立てることを大切にしています。これは和王そのものの品質が高いからこそ、成立する表現です。

さらに石田屋では、和牛を象徴する一皿として、シグネチャーのシャリアピンを大切にしています。
シャリアピンステーキは、1934年に帝国ホテルに滞在したロシアの声楽家フョードル・イワノビッチ・シャリアピンのために考案された料理です。歯の調子が優れず、好物のステーキを食べにくかったシャリアピン氏のために、「すき焼き」をヒントに、玉ねぎを使って肉をやわらかく仕立てたことが、そのはじまりとされています。

石田屋のシャリアピンは、その古典への敬意を土台にしながら、和王の品格と石田屋の火入れで再構築した一皿です。
やわらかさだけで終わらず、和牛本来の旨み、玉ねぎの甘み、余韻のある味わいまでを一体として仕上げる。石田屋では、和牛を単なるご馳走ではなく、技術と物語を兼ね備えた一皿として表現しています。

また、石田屋では和牛のもう一つの表現として、すき焼きも大切にしています。
すき焼きの原型ともいえる牛鍋は、明治から大正にかけて、日本が文明開花を迎えた時代に広く食べられるようになった料理の一つです。石田屋では、その歴史への敬意を込めながら、A5ランクの和王を用い、赤身と脂のバランスに優れた肩肉を小鍋仕立てでご提供しています。

華やかさだけではなく、肉の旨みをしっかりと味わえる部位を選ぶこと。
そして、鍋の中で火を入れながら、和牛の香り、脂の甘み、割り下の余韻を一体にして味わっていただくこと。
石田屋では、すき焼きを、和牛の魅力を最も親しみ深く、そして深く伝える料理の一つと考えています。

6. 師伝の逸品

石田屋の「師伝の逸品」は、修業時代に受け継いだ技と精神を、今の石田屋の一皿として昇華した料理です。

その代表が、牛タン柔らか煮です。
牛タンは、ただやわらかく煮ればよい料理ではありません。
旨みを逃さず、繊維をほどき、口の中で静かに崩れていく食感へ導くには、火入れ、含ませ方、重ねる味の設計、そのすべてに繊細な仕事が求められます。

石田屋では、この牛タン柔らか煮を、じゃがいものピュレとともにお召し上がりいただきます。
やわらかな牛タンの旨み、餡の深いコク、そしてじゃがいものやさしい甘みと香りが重なることで、味わいはより立体的に広がっていきます。
一口の中で、旨み、コク、香りが幾重にも重なり、静かに膨らんでいく。
それが、この一皿の大きな魅力です。

石田屋では、この料理を単なる名物としてではなく、師より受け継いだ技術と感覚を、今の店の流れの中で磨き続けるための一皿として大切にしています。
受け継ぐとは、形をなぞることではなく、その本質を理解し、自分の料理としてさらに深めていくことだと考えているからです。
師伝の逸品は、修業時代の記憶を語るためだけの料理ではありません。

石田屋という店の技術の礎がどこにあり、その学びをどのように今へつないでいるのかを静かに物語る一皿です。

7. 伝来の一皿

石田屋の「伝来の一皿」は、代を超えて受け継がれてきた味と記憶を、今の一皿として表現する料理です。

その代表が、〆鯖です。
鯖は、店主の祖父が生きていた頃、焼津でよく水揚げされていた特産品の一つでした。
黒はんぺんにも使われるように、鯖は焼津の食文化を支えてきた、土地に根ざした大切な海の幸です。

石田屋では、その焼津の海の幸への敬意を込め、祖父の時代に受け継がれてきた梅酢の記憶を、今の料理として磨き直しています。
鰹節を効かせた土佐酢ジュレに、梅干しの裏漉しを重ねることで、やわらかな酸味、旨み、そしてほのかな梅の香りを一皿に表現しています。
鯖の脂を引き締めながら、その旨みを美しく際立たせること。
そこに、焼津らしい鰹節の風味と、受け継がれてきた知恵を重ねること。

石田屋では、この一皿を単なる郷土の記憶としてではなく、焼津の海の幸への敬意と、技術の継承、そして今の石田屋としての昇華として捉えています。
伝来の一皿は、懐かしさを語るためだけの料理ではありません。
石田屋という店が、どこで育ち、何を受け継ぎ、何を次へ渡していくのかを静かに物語る一皿です。

8. 石田屋の鰻

石田屋の鰻は、一皿の中で主役となるだけの、圧倒的な力を持つ食材です。

濃い旨み、厚みのある脂、香ばしさ、そして食後まで残る深い余韻。
鰻は、それだけで料理を成立させるだけの強さを備えています。

石田屋では、1キロ以上の大きな鰻を用います。
生きたまま仕入れ、締めて血抜きを施した後、すぐには使いません。
最低でも五日から一週間、静かに熟成させることで、脂を落ち着かせ、旨みをより深く、味わいをより美しく整えていきます。
力強さの中に品格を生むための、大切な時間です。

仕立ては、関東式。
白焼きにし、蒸しを入れ、そして蒲焼へと仕上げます。
一度蒸すことで余分な重さをほどき、ふっくらとやわらかな身質へ導きながら、最後は香ばしく焼き上げる。
そのため、外には香りが立ち、中には鰻ならではの濃い旨みが静かに満ちていきます。
タレもまた、石田屋の鰻を形づくる大切な要素です。
その土台には、師匠から受け継いだ仕事があります。

そこからさらに、ベトナムの気候や食文化、現地のお客様の感覚にも寄り添うよう、石田屋として磨き上げています。
継承と昇華、その両方を重ねながら、今の石田屋の鰻の味を形づくっています。

鰻の魅力は、ただ濃いだけではありません。
その旨みの奥には、圧倒的な生命力があります。
石田屋では、その力を荒々しく見せるのではなく、熟成と火入れによって品よく整え、一皿の中で深く味わっていただける形へ導いています。
鰻の生命力を味わうこと。
それもまた、石田屋が大切にしている鰻の表現です。

石田屋では、この鰻を焼物、蒲焼、白焼、鰻丼、ひつまぶし、茶碗蒸しなど、さまざまな料理に用いています。
一つの食材でありながら、仕立てによって表情を大きく変えられるのも、鰻の大きな魅力です。

石田屋では、その多彩な表現を通して、鰻という食材の奥深さをお届けしています。
石田屋では、鰻を単なる名物としてではなく、素材の力と技術の深さ、その両方を映す一皿として大切にしています。

9. 石田屋の甘味

石田屋では、甘味において、あえて和菓子と洋菓子の両方を取り入れています。

日本料理の締めにふさわしい静かな余韻を大切にしながらも、店主・石田高浩が歩んできた修業の時間、そして家の記憶もまた、一皿の中に息づいているからです。
たとえば、自家製のバニラアイスに静岡の抹茶をかけて仕立てる抹茶アフォガート。
あるいは、フランス料理店で修業した時代に学んだ技術をもとにした、カラメルのアイスクリーム「ベルナッション」。
また、プリンは、遠い日の、子どもの頃の記憶を映した、母のレシピによる大切な甘味の一つです。どこか懐かしく、静かに心に残る味わいです。

一方で、和菓子も石田屋の締めくくりに欠かせない表現です。
その一つが、天然水を寒天と魚のコラーゲンで固めた、石田屋のコラーゲン水餅です。
これは、山梨で働いていた頃に触れた「水信玄餅」から発想を得たものです。
水の透明感や儚さを生かしたあの菓子の印象を土台にしながら、石田屋では魚のコラーゲンを加えることで、やわらかさの中に、口の中で静かにほどける独自の食感と余韻を持たせています。

そのほかにも、わらび餅、最中など、季節や献立に応じてさまざまな甘味をご用意しています。
和菓子と洋菓子、そのどちらか一方に寄るのではなく、それぞれの良さを受け止めながら、今の石田屋にふさわしい甘味へと整えています。
石田屋の甘味は、単に食後のデザートではありません。

料理の余韻を受け止め、最後にもう一度、やわらかな印象を残すための一皿です。
店主の歩みと、家の記憶、そして和と洋の技法、その両方を静かに映した締めくくりとして表現しています。

10. 石田屋のお茶

石田屋では、食後のお茶として、塩きり焙じ茶を大切にしています。

これは、懐石料理屋で教わった知恵をもとに、料理の余韻を静かに整えるために取り入れている一杯です。
用いるお茶は、店主の生まれ故郷にもつながる静岡産。
香り高く、やわらかな奥行きを持つ茶を焙じることで、食後にふさわしい、温かく落ち着いた香ばしさを引き出しています。
そこに、ほんのわずかな塩味を添えることで、焙じ茶の香りはより立体的になり、料理の余韻をやさしくほどきながら、口の中をすっきりと締めくくっていきます。

焙じ茶の温かな香りが後口を整え、少量の塩が味わいの輪郭を引き締める。
そのため、食事の終わりにふさわしい、軽やかで静かな余韻が生まれます。

石田屋では、お茶を単なる締めの飲み物とは考えていません。
料理の最後の印象を整え、食後の時間まで美しく導くための、大切な一杯と考えています。
塩きり焙じ茶は、石田屋の食事を静かに結ぶための、ささやかでありながら大切な締めくくりです。

11. 石田屋の器としつらえ

石田屋では、料理だけでなく、器としつらえもまた、一皿を完成させる大切な要素だと考えています。
どれほど料理が良くても、それを受け止める器や、それが置かれる空間が整っていなければ、石田屋の表現としては完成しません。

石田屋が大切にしている空気の土台には、「大正ロマン」と呼ばれる時代の美意識があります。
それは、昔の日本をそのまま再現することではありません。
日本の伝統を大切にしながら、新しい感性や異なる文化も自然に受け止めていくこと。
重厚さはあるけれど古くさくはなく、華やかさはあるけれど騒がしくはない。

石田屋では、そうした落ち着きと品のある空気を大切にしています。
その感覚は、料理だけでなく、空間づくりにも通っています。
2階のカウンターは、日本の神社仏閣から着想を得て設計しました。
天井に重なる木組みや梁の見え方には、社寺建築に通じる静かな緊張感があります。
その中心には、約300キロの御神木を据えています。
日本では、長い年月を生きた大きな木には神が宿ると考えられることがあります。

石田屋では、そうした日本らしい感覚への敬意も、この空間の中に込めています。
また、石田屋では、ただ新しいものだけで空間をつくるのではなく、時間を経たものを生かし直すことも大切にしています。
棚や建具に使っている金具の中には、大正時代の実物を日本から運び、こちらで磨き直して使っているものがあります。
古いものをただ飾るのではなく、今の空間の中で再び息づくよう整えて使うこと。
そうした細かな部分にも、石田屋の考え方が表れています。

器もまた、単なる盛り付けのための道具ではありません。
料理の色、温度、質感、余白、そしてその一皿が持つ空気までを受け止める大切な存在です。

石田屋では、染付、赤絵、銀彩、漆、ガラスなど、表情の異なる器を幅広く用いています。
さらに、ボヘミアグラス、江戸切子、能作の鋳物の酒器なども取り入れながら、料理や酒が最も美しく見える組み合わせを整えています。
向付、長皿、小皿、蓋物、椀、鉢、懐石盆、茶托、酒器に至るまで、それぞれが料理に合わせて選ばれています。
一つの器で何でも済ませるのではなく、料理ごとにふさわしい受け止め方を整えることを大切にしています。
たとえば、造りには静けさや余白を生かす器を。
焼物や天ぷらには、輪郭や立体感がきれいに出る器を。
椀物には、蓋を開ける所作や香りの立ち上がりまで含めて美しく見えるお椀を。
酒の時間には、手に取った時の重みや口当たりまで意識した酒器を。

石田屋では、料理そのものだけでなく、それをどう見せ、どう感じていただくかまで含めて一皿を整えています。
しつらえもまた、石田屋にとって大切な仕事です。
目立ちすぎず、しかし何もないわけではない。
木の存在感、古い金具の質感、赤の差し方、暗がりの中の光、器の取り合わせ。
そうしたものを重ねながら、きちんとしているのにかたくなりすぎず、華やぎはあるのに落ち着いている、石田屋らしい空気をつくっています。

そして石田屋は、日本の技術や美意識を大切にしながら、ベトナムという土地への敬意も忘れません。
日本をそのまま写すのではなく、ベトナムの空気の中で無理なく成立する形へと整えていくこと。
器としつらえにおいても、その考え方を大切にしています。
料理が器に盛られ、空間に置かれた時、一皿は初めて完成します。
石田屋では、その瞬間までを含めて、料理だと考えています。

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